貧乏神と福の神
むかしむかし、ある村に、とても貧乏な男がいました。
働き者の男ですが、いくら働いても暮らしはちっとも楽になりません。
それと言うのも、実は男の家には貧乏神が住み著いていたからです。
そんな男に、村の人たちが嫁(よめ)の世話をしました。
この嫁は美人な上に働き者で、朝から晩まで働きます。
「いい嫁ごだ。よし、わしも頑張るぞ!」
男は以前にも増して、働く様になりました。
そうなると、困ったのは貧乏神です。
「何とまあ、よう働く夫婦じゃ。これでは、ここに居づらくなってきたのう。わしゃ、どうすればいいんじゃろう?」と、
だんだん元気がなくなってきました。
それから何年かたった、ある年の大晦日。
男の家では、わずかながらもごちそうを用意して、ゆっくりと正月を迎えようという時。
「うぇ~ん、うぇ~ん」
天井裏から、泣き聲が聞こえてきます。
「おや? 誰じゃろう?」
男が見に行くと、何とも汚い身なりのおじいさんが一人、聲を張り上げて泣いていました。
「あんたは、一體誰かね?」
「わしか? わしゃ、貧乏神じゃ。
ずっとむかしからこの家に住んでおったのに、お前ら夫婦がよう働くもんで、今夜、福の神がやって來るちゅうんじゃ。
そしたらわしは、出て行かんとならんのだ。うぇ~ん、うぇ~ん」
男は自分の家の守り神が貧乏神と聞いて少しガッカリしましたが、それでも神さまは神さまです。
下の部屋に降りてもらって、嫁に訳を話しました。
そして貧乏神が可哀想になった男は、ついこんな事を言いました。
「せっかく、長い事おったんじゃ。これからもずっと、ここにおって下され」
すると、嫁も口をそろえて。
「そうじゃ、そうじゃ。それがええ」
どこへ行っても嫌われ者の貧乏神は始めて優(yōu)しい言葉をかけられて、今度は嬉し泣きです。
「うぇ~ん、うぇ~ん」
こうしているうちに夜もふけて、除夜(じょや)の鐘が鳴り始めました。
これが、神さまの交代する合図です。
その時、
? トントントンと、戸を叩く音がしました。
「こんな夜更けに、どなたですじゃ?」
「ガッハハハハ。
お待たせ、お待たせ。
わしは神の國からはるばるやって來た幸福の使い。
誰もがわしを待ち望む
福の神だー!」
ついに、福の神がやって來ました。
福の神は、貧乏神に気がつくと、
「何だ、薄汚い奴め、まだおったんか。はよ出て行かんと、力ずくでも追い出すぞ!」
だが、貧乏神も負(fù)けていません。
「なにお~っ!」と、福の神に突進(jìn)しましたが、やせてヒョロヒョロの貧乏神と、でっぷりと太った福の神では勝負(fù)になりません
それを見ていた夫婦は、
「あっ、危ない!」
「貧乏神さま、負(fù)けるでねえぞ!」
それを聞いておどろいたのは、福の神です。
「何で? 何で、貧乏神を応援するんじゃあ?」
夫婦は貧乏神と一緒に、福の神を家の外へ押し出します。
「わっせい! わっせい!」
とうとう三人がかりで、福の神を家の外へ押し出してしまいました。
追い出された福の神は、あぜん、ぼうぜん。
「わし、福の神よ。
中にいるのが、貧乏神。
貧乏神は嫌われて、福の神は大切にされるはずなのに。
これはいったい、どういう事?」
首をひねりながら、すごすごと引きあげて行きました。
「やった、やった!」
次の日は、めでたいお正月です。
貧乏神も一緒に、お正月のお祝いをしました。
それからというもの貧乏神のせいで、この家はあまり金持ちにはなりませんでしたが、それでも元気で幸せに暮らしたという事です。
おしまい
註: 貧乏神とは、人を貧乏にさせると信じられている神で、小さく、痩せこけて色青ざめ、手に破れた渋団扇を持ち、悲しそうに立つといいます。
昔話に登場する貧乏神は、あいきょうがあり、とてもしたたかな存在です。